【4年生・化学】探究実験:酸化還元滴定

ねらい

酸化還元反応について実感を伴って理解するとともに、化学反応の量的関係を実生活に役立てるための実験的手法である「滴定」のしくみを理解し、その技能を身に付ける。その際、既知の知識や技能を活用して生徒が実験を計画することで、ただ操作や計算のやり方を覚えるだけでなく、その目的や意味を考えることで、化学反応の量的関係や滴定について深く理解する。

概要

4年生の1学期に「物質量と化学反応式」の単元で、物質量や化学反応の量的関係など、化学反応を定量的に理解するための基礎知識を学び、問題演習を行った。また、「酸と塩基の反応」の単元の中で中和滴定の実験を行い、濃度の分かっている水酸化ナトリウム水溶液を用いて濃度未知の市販の食酢中の酢酸の濃度を求めることで、滴定の実験のしくみやその手法を学んだ。

本授業は2学期前半に、「酸化還元反応」の単元の中で酸化還元滴定を扱う際、「濃度の分かっている過マンガン酸カリウム水溶液を用いて濃度未知の市販のオキシドール中の過酸化水素の濃度を求める」という探究課題を与え、それを解決するための実験を行った。

まず、これまでの授業で学んだ化学反応の量的関係の計算方法や酸化還元反応のしくみの理解、中和滴定の実験で学んだ滴定の技能を活用することで、生徒自身で実験の手順と注意点を考え、実験を計画した。目的意識をもって実験するために、実験前の仮説として「実験がうまくいかなくなる要因」と「起こりうる誤差の原因」も各自で考えた。

その後、4人または5人の班を組み、各自が計画したことをもとに班で実験を行った。その後、得られたデータをもとに、化学反応の量的関係を用いてオキシドール中の過酸化水素の濃度を計算した。また、仮説の妥当性、方法の妥当性、方法の改善・拡張について考え、可能な限り誤差を減らすことができたかどうかと、さらに誤差を減らすための方法の改善点について考察した。

そして、その実験計画から考察までの流れを生徒一人一人が1本のレポートにまとめた。レポートは、一度提出した後教員がコメントをして返却し、各自修正・書き直しをして再提出を行った。

成果(ふりかえり)

実験計画を行ったことで、操作や注意点を自分たちで考えて実行できるようになり、実験中の教員からの指示を最小限にすることができた。また、実験操作は1学期に行った中和滴定と類似しているため、ホールピペットやビュレットの使い方も熟達してきており、スムーズに操作し、無事に過不足なく反応させることができた班が多かった。ビュレットからコニカルビーカーに適量の過マンガン酸カリウム水溶液を滴下でき、最後の一滴でコニカルビーカー内の水溶液の色が無色からうすい赤紫色になった時は、うれしそうな生徒の表情を見ることができた。

時期をずらして2種類の滴定を生徒実験で行ったことで、既習事項を復習して定着させ、さらに深い理解につなげられただけでなく、学んだことを新しい場面で活用する応用力も育むことができた。

また、今までの実験ではワークシートを用いて教員が作った枠の中で考察することが多かったが、今回生徒は何も書かれていないレポート用紙に一からレポートを書くことを経験でき、実験内容をいかに論理的かつ明瞭に書けるかということに試行錯誤しながら取り組んでいたため、批判的思考力や表現力を醸成することもできた。

さらに、はじめはレポートの書き方に慣れずに苦心していた生徒も、再提出の際には、教員のコメントやクラスメイトの助言をもとに改良し、ある程度筋の通ったレポートを完成させることができた。

4年生の化学は、高校の「化学基礎」として必修単位のため、生徒の化学への興味・関心や学力に差がある。その中で、実験を計画し、班で実験を行ったことにより、お互いの得意な部分を活かして苦手な部分を補い合ったり、なぜそのような結果になったのかを班で議論して考察を深めたりと、生徒同士での学び合いを行うことができた。実験の計画から実行、考察までの流れを生徒主体で行ったことにより、生徒の科学研究の技能を総合的に高めることにも貢献した。また、市販のオキシドールという身近なものを用いたり、過不足なく反応したことが綺麗な色の変化で観察できたりと、化学の楽しさや有用性に気付ける場面も多く、化学への興味・関心を高めることもできた。

一般的に高校化学は、学ぶ内容が多いため実験をする時間的余裕がなく、どうしても座学中心になりがちである。しかし本校では中高一貫教育の利点を活かし、3年生から一部高校内容を学び始めるため、3・4年生ではある程度自由度の高い授業設計が可能となり、このような探究実験を行う時間が確保できた。生徒の堅実な理科の学力を醸成するためには、生徒の興味関心や学力を十分に高められるような意義深い実験の機会を増やすことが最も重要だと考える。今後もこのような取り組みにより、本校の理系の学力を高めるための土壌づくりを行っていきたい。

(渡辺真伍)